mdyのボケ防止ノート

なんでもすぐ忘れるので書き残すことにしました。電子工作とかアマチュア無線とかについて書いてます。あまり鵜呑みにしないでください。

アンテナをほんの少し数式で理解したい

気になるアンテナの仕組みは? 彼氏は? 年収は!? 調べてみた!

以下は所属している大学のサークルの部誌に寄稿した文章(一部改変)です。はてなブログで数式打てるらしいと聞いてその実験として投稿してみることにしました。

1. はじめに

アマチュア無線にはなにかと必須なアンテナですが, 仕組みを"ちゃんと"理解している人は案外少ないのでは? そんなことを考え, なんとなく調べてみました。

そんな内容ですので, 以下ガッツリ物理が出てきます。数式アレルギーの方はゴメンナサイ......。

この記事はおもに1~2年以上の理系大学生を対象としており、具体的に以下の要素を含んでいます。ご容赦ください……(;´∀`)

2. そもそも電波って?

SNSを見ていると, 中には電磁波を身体で感じ取れる方なんてのもいらっしゃるようですね。 まず電波という言葉について。これは電波法によると「三百万メガヘルツ以下の周波数の電磁波」とあります。まあこの辺は従事者免許を取るときにまず勉強するやつですよね。

では電磁波とは何でしょう。ここでマクスウェル方程式のうちの2つを用意します。

 \displaystyle \nabla \times \boldsymbol{E} = - \frac {\partial \boldsymbol{B}} {\partial t}
 \displaystyle \nabla \times \boldsymbol{B} = \mu_0 \varepsilon _0 \frac {\partial \boldsymbol{E}} {\partial t}

ただし何もない真空中を考えており, 電荷密度 \rho = 0, 電流密度 \boldsymbol {j} = 0とします。 いきなりですがこの2式を連立してうまいことやると, 以下が得られます。*1

 \displaystyle \frac {\partial ^2 \boldsymbol{E}}{\partial t^2} = \frac{1}{\mu_0 \varepsilon_0} \nabla ^2 \boldsymbol{E}
 \displaystyle \frac {\partial ^2 \boldsymbol{B}}{\partial t^2} = \frac{1}{\mu_0 \varepsilon_0} \nabla ^2 \boldsymbol{B}

これは波動方程式です。つまり, 電場・磁場は空間中において波として伝播することが言えそうです。これが電磁波であり, 電波や光やγ線です。なお真空中と設定しましたが大気中でも同じようなことが言えます。

ちなみに定性的には, 電場が変化→その周りで磁場が変化→その周りで電場が変化→……と繰り返し, 伝播していくと考えればよいと思います。

ということで, アンテナの役割は「電圧・電流の変化によって電場・磁場を変動させ電磁波を放射すること」および「電場・磁場の変動を電圧・電流に変換して信号を受信すること」となります。

3. 分布定数回路

アンテナの前に少し寄り道をして, 高周波の交流回路のふるまいについて考えます。

アマチュア無線では数MHz~数GHzの電波を取り扱うために同じ周波数の交流回路を使います。このレベルの周波数になると, 普通の直流・交流回路と同じような議論はできなくなります。具体的には, ただの伝送線においてもリアクタンスを無視することができなくなります。

図1(a)のような平行2線伝送路を考えます。普通の直流や交流回路では, 線上のどの点においても電圧は一定ですが, 高周波では異なります。高周波では, 線路の直列インダクタンスL, 並列キャパシタンスCが全体に分布していると考え, これは図1(b)のような等価回路(分布定数回路)で表すことができます。

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図1 平行2線伝送路

図中のL, C, R, G(コンダクタンス, 抵抗の逆数)は単位長あたりの値を示します。また実際にはRとGを無視し LとCだけの回路とみなすことも多く, ここでも以降そう扱います。

では, この回路において線上各点での電圧(2線間の電位差)及び電流について考察します。線に沿って座標を取り, 位置 xでの電圧・電流を V(x), I(x)それぞれとすると, 位置 x+\Delta xとの間での電圧降下は

 \displaystyle \Delta V = V(x+\Delta x)-V(x) = -L\Delta x \frac {\partial I}{\partial t}(x)
 \displaystyle \therefore \frac {\partial V}{\partial x}(x) = -L\frac {\partial I}{\partial t}(x) \tag{1}

また電流については,変化分はキャパシタンスCから流れ込んだ分であるから, 単位長あたりに蓄えられた電荷 q(x)として,

 \displaystyle \Delta I = I(x+\Delta x)-I(x) = -\Delta x \frac {\partial q}{\partial t}(x) = -C\Delta x \frac {\partial V}{\partial t}(x)
 \displaystyle \therefore \frac {\partial I}{\partial x}(x) = -C\frac {\partial V}{\partial t}(x) \tag{2}

この得られた2式から次の結論が導かれます。

 \displaystyle \frac {\partial ^2 V}{\partial t ^2}(x) = \frac{1}{LC} \frac {\partial ^2 V}{\partial x ^2}(x) \tag{3}

 \displaystyle \frac {\partial ^2 I}{\partial t ^2}(x) = \frac{1}{LC} \frac {\partial ^2 I}{\partial x ^2}(x) \tag{4}

これも波動方程式ですね。つまり電圧及び電流は伝送路中を伝播することがわかりました。これはアンテナを考えるうえで非常に重要な性質です。

4. アンテナにおける電圧・電流の振る舞い

ところでアンテナも電子回路の中に組み込んで使われるものです。以下はアンテナの図です。

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図2 よく見るアンテナの図

......そういえば, 小学校で習った知識だと, 電流って輪っかができてはじめて流れるんじゃありませんでしたっけ?

僕がこの記事を書き始めたのもそもそもはこの疑問が始まりです。見ていきましょう。

さて, 一般に波動方程式の一般解は次式で表せるのでした。*2

 \displaystyle u(x,t)=f(x-vt)+g(x+vt)

f, gは任意の関数です。つまり, 伝送線上の電圧・電流はなんらかの進行波と反射波の重ね合わせの状態にあると考えることができます。

次に, 図1の分布定数回路で, 右端の負荷 Z=\infty, つまり右端を開放した時を考えます。すると, 線路の右端では電流がゼロ(キルヒホッフの法則)という境界条件が生じます。以上から, 先端を開放した線路に高周波電圧・電流を印加すると, これらは端で反射して定在波を生じることがわかります。*3図3にイメージを示します。

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図3 線上での電圧・電流のイメージ

平行2線のままでは電流が互いに逆位相(逆向き)のため電磁波の放射を打ち消しますが, これを例えば図2のようにして, 電磁波を放射できる形にします。これがアンテナです。

ちょっとひとやすみ*4

今日から令和です!

令和はどんな時代でしたか?令和が終わった後アクセスしてくださっている方いればコメントください。

5. アンテナからの電磁波の放射・偏波

アンテナが回路としてどうふるまうのかがわかったので, 最後に電磁波を放射するメカニズムを見ます。と思ったんですが, この定量評価は式と図が大変なことになりそうだったので割愛します(言い訳)。趣旨が趣旨だけに残念ですが, この節ではやや簡単な紹介にとどめます。

高校物理でやったように, 電流の周りには磁場の渦が生じます(ビオ・サバールの法則)。電流が周期的な交流電流の時, 誘導磁場もそれに比例して周期的に変動します。磁場が変動すると, 今度はその周りに電場の渦が生じ, 以降は2節で触れたように誘導を繰り返していきます。以上をなんとなく図にしてみると, 以下のようになります。

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図4 直線電流周辺の電場・磁場

計算をしていないので「どっから来たのこの図」感がしてしまいますね……。*5

この図からわかるように, 電場・磁場・電磁波の進む向きは互いに直交しており, 特に電場を含む平面のことを偏波面といいます。直線アンテナの場合はエレメントを含む面が偏波面ですね。

正確に空間中の電場・磁場を求めるには, 図のような微小部分(ヘルツダイポール)に生じる電流がつくる電場・磁場を各法則から求め, 全体にわたって積分します。詳しくは参考文献を......。

6. 特性インピーダンス・共振・エレメント長

なんとなくスッキリしたところで, 次はアンテナのステータスについて考えます。今のままでは用途別に様々な長さ・形状のアンテナが必要になる理由がわかりません。共振と言えばそれまでなんですが, その意味本当に理解していますか? 3節でV, Iの波動方程式(3), (4)が得られたので, この解を設定しましょう。指数関数を使って

 \displaystyle V(x,t) = A e^{j(kx-\omega t)} + B e^{-j(kx-\omega t)}
 \displaystyle I(x,t) = A' e^{j(kx-\omega t)} + B' e^{-j(kx-\omega t)}

とします。*6A, B, A', B'は任意定数, kは波数, ωは角周波数, jは虚数単位です。 ここで, 式(3)又は(4)を満たすための条件として,

 \displaystyle \frac{\omega} {k} = \frac{1} {\sqrt{LC}}

の関係が, 式(1), (2)を満たすための条件として,

 \displaystyle A = \frac {\omega}{k}LA' = \sqrt {\frac {L}{C}}A'
 \displaystyle B = -\frac {\omega}{k}LB' = -\sqrt {\frac {L}{C}}B'

の関係があります。  Z_0 \equiv \sqrt{ {\frac {L}{C}}}のことを特性インピーダンスと呼び, これは伝送路の形状によって決まります。つぎにVについて整理して,

 \displaystyle V(x,t) = A e^{j(kx-\omega t)} \left(1 + \frac {B e^{-j(kx-\omega t)}} {A e^{j(kx-\omega t)}} \right) \equiv A e^{j(kx-\omega t)} (1+\Gamma)

とします。 \Gamma \equiv \frac {B e^{-j(kx-\omega t)}} {A e^{j(kx-\omega t)}} のことを反射係数と呼びます。同様にIについても整理すれば,

 \displaystyle I(x,t) = \frac {A}{Z_0} e^{j(kx-\omega t)} (1- \Gamma)

したがって, 位置x, 時刻tにおける伝送路の入力インピーダンスZ(x,t)は, *7

 \displaystyle Z(x,t) = \frac {V(x,t)}{I(x,t)} = \frac {1+\Gamma} {1-\Gamma} Z_0

と書き表すことができました。

今度は境界条件からΓを絞り込みます。図3のように右端が開放されている時, *8

 \displaystyle I(0,t) = AZ_0 e^{-j \omega t} - BZ_0 e^{j \omega t} = 0
 \displaystyle \therefore \frac {B} {A} e^{2j \omega t} = 1

この条件とΓの表式を見比べて,

 \displaystyle \therefore \Gamma = e^{-2jkx}

したがってこの場合の入力インピーダンスは,

 \displaystyle Z(x,t) = \frac {1+e^{-2jkx}} {1-e^{-2jkx}} Z_0 = \frac {e^{jkx}+e^{-jkx}} {e^{jkx}-e^{-jkx}} Z_0 = \frac {1} {j \tan{kx}} Z_0

と, かなり具体的かつシンプルな結果が得られました。これをグラフに示してみます。

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図5 終端開放の伝送路の入力インピーダンス

波長 \lambda = \frac {2 \pi}{k}の関係に注意すると, 線路長が \lambda /4の奇数倍のときに Z=0となることがわかります。このとき流れる電流が最大となり, 効率よく電波を放射あるいは受信できるようになります(共振)。 なお, 図2(b)のように線路を開いた時は全長が \lambda /2のときに共振します。半波長ダイポールアンテナといいます。

7. おわりに

いかがでしたか? アンテナの今後に期待したいですね!

おそらく色々間違っていると思うので, その都度ツッコミのコメントを残してくださると喜びます。

参考文献

岡田文明(2004)『マイクロ波工学-基礎と応用』山海堂.

ファインマン, R.P.(2002)『ファインマン物理学〈4〉電磁波と物性』戸田盛和訳, 岩波書店.

電気通信振興会編(2007)『入門 アンテナおよび電波の伝わり方』電気通信振興会.

小形正男(1999)『振動・波動』(裳華房テキストシリーズ-物理学)裳華房.

関連記事

こちらも併せてどうぞ!(同じ部誌に掲載された記事です) monhime.hatenablog.com

*1: \boldsymbol Bを消去する過程で \nabla \times (\nabla \times \boldsymbol{E}) = \nabla (\nabla \cdot \boldsymbol{E}) - \nabla ^2 \boldsymbol{E}を使います。更にこの第1項は \rho=0より消去できます。

*2:授業で習ってない方も実際に波動方程式にぶちこんで2階微分すれば確認できます。

*3:定在波を用意する理由はアンテナ全体で電磁波の位相が揃うからだと思っていますが, 進行波アンテナとかもあるのでぶっちゃけよくわかりません><

*4:ここで前編後編に分けようかと思ったけど式行き来するのがめんどくさそうなのでやめた。

*5:ちなみに頑張って自分で描きました(。・ ω<)ゞ『マイクロ波工学-基礎と応用』p.53の図がベースです。

*6:見慣れない形だとは思いますが, ぜひ式(3), (4)に代入して解になっていることを確かめてみてください。なおこの形のメリットは, 第1項が進行波, 第2項が反射波を表していることです。

*7:位置xより右側にある回路を1つの素子と見なしたときのインピーダンスのこと。

*8:うっかり座標の原点を設定し忘れていました。開放されている右端を x=0とし, 図の左向きに座標軸を取っています。つまりZ(x,t)とは長さxの伝送路の入力インピーダンスを指します(ご都合主義)。